マティアス | 兄ルドルフ2世を打倒した皇帝の”悲しき勝利”

その勝利は決して栄光に満ちたものではなかった。

慎重な計算のもとに進められた交渉、綿密に築かれた同盟、そして誰よりも冷静に見極めた勝機—マティアスは、混迷するハプスブルク家において、自らの立場を着実に固めていった。

(マティアスの肖像画)

彼が倒したのは、もはや影のように衰えた兄ルドルフ2世。

しかし、彼が手にした帝国はすでに深い亀裂が入っていた。カトリックとプロテスタントの対立、ハプスブルク家の分裂、そして三十年戦争の足音—彼の治世は、嵐の前の静けさに過ぎなかったのだ。

兄ルドルフ2世との対立

兄ルドルフ2世は、ボヘミアのプラハに宮廷を移し、政治よりも錬金術や芸術に心血を注いだ。

奇抜な趣味と孤立主義により、帝国の実権を握る能力を次第に失っていった。これに対し、弟マティアスは統治能力を発揮し、次第に勢力を拡大する。

1606年、マティアスは兄に無断でオスマン帝国と和平を結び、ハンガリーとオーストリアの貴族たちの支持を取り付けた。これがハプスブルク家の「兄弟戦争」の引き金となる。

1611年には、ボヘミアの貴族たちがルドルフ2世の統治に反旗を翻し、マティアスをプラハに迎え入れることを決定する。

悲劇の皇帝交代劇

1612年、ルドルフ2世は病死し、マティアスが神聖ローマ皇帝の座に就く。だが、その勝利は決して晴れやかなものではなかった。

兄との長年の確執、ハプスブルク家の内部分裂、そしてプロテスタントとカトリックの対立はさらに激化し、帝国の不安定さは増すばかりであった。

帝国の財政は逼迫し、忠実な軍隊もなく、貴族たちは各地で独自の権力を拡張しようとしていた。彼が兄の失政を批判して奪った皇帝位は、皮肉にも自らを同じ袋小路へと追い込むことになった。

三十年戦争の前夜

マティアスの治世は、宗教的対立による混乱の連続であった。カトリックの立場を強化しようとする皇帝の政策は、プロテスタント勢力の怒りを招いた。

1618年、プラハ城でプロテスタントの貴族たちが皇帝側の官僚を窓から投げ落とす事件—「プラハ窓外投擲事件」が発生。

 (第一次プラハ窓外放出事件)

これが三十年戦争の引き金となる。

この時すでにマティアスは老い、帝国を統治する力を失いつつあった。皇帝の座にあったものの、実際の権力は後継者フェルディナント2世に移りつつあり、マティアスの影響力は次第に薄れていく。

1619年、マティアスは失意のうちにこの世を去った。

まとめ

マティアスの生涯は、兄弟の争いと帝国の内紛に翻弄されたものであった。

彼はルドルフ2世から皇帝の座を奪ったものの、それは帝国のさらなる混乱を招く結果となった。彼の治世の間に、プロテスタントとカトリックの対立は決定的となり、三十年戦争という未曾有の戦乱が勃発する。

マティアスの勝利は、果たして本当に「勝利」と言えるのか。それは、彼の死後に続くハプスブルク家の運命を見れば明らかであろう。

彼は帝国を統一することなく、長年の争いを次代に託し、歴史の舞台から静かに姿を消した。

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