ブルボン家とハプスブルク家の対立とは？

太陽と鷲が空を分け合ったとき、ヨーロッパは燃え始めた。

“朽ちゆく帝国”ハプスブルクと、“昇りゆく王朝”ブルボン。その戦いは剣の戦争であり、王冠の争奪戦であり、血と紙に彩られた地図の書き換えだった。舞台は宮廷と戦場、道具は結婚と条約。

彼らの対立は、やがて大陸の骨組みをも揺るがすことになる。

第一幕──スペイン継承戦争

1700年、スペイン王カルロス2世が嗣子なく崩御した。

病弱で孤独だったこの王が残した遺言は、ヨーロッパの火薬庫に火をつけることとなる。彼が選んだ後継者は、フランス王ルイ14世の孫フェリペ。ブルボン家である。

これに異を唱えたのが、神聖ローマ皇帝レオポルト1世を戴くハプスブルク家だった。

王座なき遺言

ハプスブルク家の言い分はこうだ。スペイン・ハプスブルクの正統な血筋を継ぐのは、わが家門の者こそふさわしい。

かくして、フェリペ（後のフェリペ5世）と、レオポルトの子カール（後のカール6世）との間で“スペイン王位”が争われることとなった。

この対立に、イギリスやオランダなど諸国が巻き込まれ、大戦争へと発展する。スペイン継承戦争（1701〜1714年）の勃発である。

戦場はイベリア半島にとどまらず、オーストリア領ネーデルラント、ドイツ南部、果ては新大陸へも広がった。人々が王座を賭けた戦に巻き込まれ、数十万の命が失われた。

ウトレヒト条約と地図の書き換え

1713年、戦争はイギリス主導の和平によって終結を迎える。

このとき結ばれた「ウトレヒト条約」により、フェリペ5世はスペイン王位を認められるが、フランス王位との兼任は放棄。つまり、ブルボン家はスペインを得るが、“ヨーロッパを一つの王朝が統べる”という野望は打ち砕かれた。

一方、ハプスブルク家は南ネーデルラント（現ベルギー）とイタリアのナポリ、ミラノなどを得て、地中海の勢力を固める。まさに、地図が塗り替えられた瞬間だった。

第二幕──オーストリア継承戦争と女帝の試練

この対立は、数十年後に再燃する。1740年、神聖ローマ皇帝カール6世が亡くなり、後継者に娘マリア・テレジアが指名された。

女性であることを理由に、ブルボン家をはじめとした列強はこの継承を認めず、再び戦争が始まる。これが「オーストリア継承戦争」である。

フランス、スペイン、バイエルン選帝侯らがブルボン側に立ち、マリア・テレジアを排除しようとする一方、イギリスとプロイセンはそれぞれの利害で動く。もはや、王朝の争いは“ヨーロッパ全体の秩序”を揺るがす時代に突入していた。

女帝マリア・テレジアは、12回の出産と戦争の指揮という重責を背負いながらも、国家を守り抜いた。

帝国から国家へ──対立の終焉とその後

ブルボンとハプスブルクの争いは、ナポレオン戦争の勃発により終息に向かう。

フランス革命を経て登場したナポレオンにより、王朝の秩序は根底から崩される。そしてウィーン会議（1814〜15）で再構築された秩序の中で、両王家は直接の衝突を避けるようになる。

かつての王朝戦争は、国民国家時代に置き換えられてゆく。ブルボン家はスペインにとどまり、ハプスブルク家は多民族帝国の調整者として近代に進むことになる。

まとめ

ブルボン家とハプスブルク家の対立は、ただの王位争いではない。

それは地図を書き換える戦いであり、ヨーロッパの秩序を巡る攻防であった。紙に記された王位継承の一行が、大陸を焼き尽くす火種となったのである。

結婚による継承、戦争による奪取、そのいずれもがこの対立の中に凝縮されていた。“王冠”とは、時に世界の形を変える。