第二次ウィーン包囲とは｜オスマンの脅威を乗り越え誕生したバロック都市

1683年、12万のオスマン軍がウィーンを包囲し、都市は存亡の危機に直面する。キリスト教世界の防壁が崩れれば、オスマン帝国は中央ヨーロッパを席巻し、ハプスブルク家の覇権は終焉を迎えることになる。

果たして、ウィーンはこの試練を乗り越え、再び立ち上がることができるのか―

ヨーロッパの危機とオスマン帝国の野望

17世紀のヨーロッパは混乱の渦中にあった。30年戦争の傷跡が残り、ハプスブルク帝国は弱体化。フランスはルイ14世のもとで勢力を伸ばし、プロイセンが台頭しつつあった。

そんな中、オスマン帝国は西方への拡張を続け、ついにウィーンへと迫る。

オスマンの狙いは単なる領土拡張ではなく、キリスト教世界の中心地ウィーンを陥落させることで、ヨーロッパ制覇への足がかりを築くことだった。

レオポルト1世の決断

ウィーンの危機に際し、皇帝レオポルト1世は究極の選択を迫られた。彼はウィーンにとどまるべきか、それとも避難して救援を要請すべきか。

彼の決断は後者だった。皇帝が包囲されれば交渉の道は閉ざされる。

彼はリンツへと避難し、ローマ教皇インノケンティウス11世と連携して神聖ローマ帝国諸侯、さらにはポーランド王ヤン・ソビエスキの援軍を取り付けるために奔走する。

ウィーンの命運は、皇帝の外交手腕に委ねられた。

(第二次ウィーン包囲の図解）

2ヶ月に及ぶ籠城戦

7月14日、オスマン軍は猛攻を開始。

砲撃により城壁は徐々に崩れ、地下トンネルを掘り爆破を試みる。城壁の一角が崩壊し、戦況は極限の緊迫を迎えた。

(オスマン帝国によるウィーンの包囲)

12万のオスマン軍に対して、防衛軍はわずか1万6千。しかし、防衛司令官シュターレンベルクの指揮のもと、兵士と市民は最後の力を振り絞り、熱湯や石を投げつけ、必死の抵抗を続けた。

飢えと疲弊、迫りくる死の恐怖。ウィーン陥落は時間の問題に思われた。

救援軍の到来と「ワイン畑の戦い」

9月3日、オスマン軍は墓壁前を完全制圧し、最終攻撃の準備を進めていた。しかし、彼らの疲労はピークに達し、士気は下がり始めていた。

そして、9月12日。ついにカーレンベルクの丘に救援軍が姿を現す。

ポーランド王ヤン・ソビエスキ率いる2万1千のポーランド軍、バイエルンとザクセンの選帝侯軍、ロートリンゲン公カールの皇帝軍―

総勢8万の連合軍が一気に丘を駆け下り、オスマン軍に襲いかかる。

「神は我らとともに！」

ワイン畑を舞台に繰り広げられた壮絶な激闘は12時間に及んだ。疲弊しきったオスマン軍は耐えきれず、崩壊。総崩れとなり、敗走した。

ウィーンは救われたのだ。

オスマンの敗北とウィーンの再生

戦争の傷跡は深かった。だが、ウィーンはこの勝利を契機に変貌を遂げる。

廃墟からバロック都市へ

荒廃した都市の再建が始まり、ワイン畑が広がっていた丘陵には、貴族たちの壮麗なバロック様式の邸宅が建てられた。ベルヴェデーレ宮殿、シェーンブルン宮殿――

戦火を乗り越え、ウィーンはヨーロッパ屈指の華麗なバロック都市へと生まれ変わったのである。

まとめ

第二次ウィーン包囲は、単なる戦いではなかった。それは、ハプスブルク家がヨーロッパの命運を賭けた戦いであり、ウィーンという都市が生まれ変わる契機でもあった。

もしウィーンが陥落していれば、ヨーロッパの歴史は変わっていただろう。しかし、オスマンの猛攻を退けたことで、ウィーンはバロックの華を咲かせたのである。

戦火の跡にそびえる壮麗な宮殿群。それは、ウィーンがただの都市ではなく、歴史そのものであることを示していた。